2013年02月10日

おばあちゃんの木(2)

 同い年のしづ子が、縁側に出てきた。
 私は風に指先をまかせた。風はしづ子のもとへ、私の小さな緑の分身を届けてくれた。
 時代は向かってはならぬ方へ確実に進んでいることを私は知っていた。その結末も、すべて。
 しかし私はどうすることもできなかった。私は一本の木であり、口も、進化した指先も持ちあわせてはいなかった。

 やがて、紅い夜がやってきた。
 熱い夜だった。
 頭のはるか上で、黒い鉄の鳥達が糞を落としてゆく。人々の魂がひとつ、またひとつと空へ消えてゆく。

「しづ子!この手を離したらいかんよ!」
「おかあちゃん!」
しづ子と母が、家を飛び出した。無事に逃げのびることを祈った。その結末を知っていても、祈らずにはいられなかった。

 まわりを見回した。地獄だった。
 私はいつしか、意識のすべてで叫んでいた。

『やめてくれ、やめておくれよ、鉄の鳥達。
 もうこれ以上、大地を焦がすのはやめておくれ。
 何の為に、おまえ達は戦争をするんだい。あたしはみんな知ってるよ。

 結局戦争は、骨しか残らないんだ。たくさんの命が消えても、誰も幸せになれないんだ。確かにあと半世紀もすれば、一応落ち着くだろうけど、それは時代も人間も生まれ変わっただけのこと。戦争は、誰も幸せになんかしないんだ。

 ああ、おやめよ、銃剣を持って走ってゆく若者よ。
 おまえひとりの力では、どうにもならないんだよ。
……私に口が、あったなら……』

 背中の後ろで竹を割ったような音がした。熱さから炎が迫って来ていることがわかった。
 しかし私はどうすることもできなかった。
 その結末を知っていたから、私は静かに目を閉じた。
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posted by なみかわ at 19:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編集 歴史博物館
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