2013年02月10日

おばあちゃんの木(1)

「この木はな、おばあちゃんと同い年なんだよ」
 私は孫の和夫にいつも話していた。和夫はいつも、
「じゃあ、『せんそう』も、知ってるんんだよね」
と答えてくれた。私はその後もきまってこう話した。
「そうだよ。この木は、空襲で少し後ろの方が焼け落ちてしまったけれど、まだ生きている。この木も、おばあちゃんも、戦争なんて二度としてはいけないことだ、そう思っているんだよ」

 優しい風が、私と和夫のもとへ赤く色付いた葉を運んで来てくれた。和夫はそれを取って、木に向かって、
「ありがとう、『おばあちゃんの木』さん。僕、絶対、大人になっても、『せんそう』反対って、言うからね」
と言った。私も木も、嬉しさを表情(かお)に出していた。

「しづ子おばあちゃん、ただいま。和夫、おみやげのゲーム、買って来たわよ」
「わあい、『世界大戦ゲーム』だ!」
 和夫は中に入って行った。私は目を細めて木を見た。木も私を見つめているようだった。
「私も貴方も、もうすぐおじいさんの、みんなのところへ行くんでしょうね」
 そうですね、とあの木がつぶやきに答えてくれたような気がした。

 それからしばらくして、私は自分の人生を終えた。もしも生まれ変わることができるなら、木になりたいと願っていたのが通じ、再び目を開くと、私は一本の木になっていた。
 ところがまわりの景色は、私の幼い頃と同じだった。木にはなれたが、またあの時代を体験せねばならないのかと思うと、自分は生き残ることがわかっていても、憂鬱にならずにはいられなかった。


 同い年のしづ子が、縁側に出てきた。
 私は風に指先をまかせた。風はしづ子のもとへ、私の小さな緑の分身を届けてくれた。
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posted by なみかわ at 19:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編集 歴史博物館
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