2013年02月10日

歴史博物館


「ねえ、見て見て。あの時計」
「何々? 『これは空襲の時に止まってしまった懐中時計である。右側の同様の時計と比べてみれば、いかにそれが恐ろしいものであったかわかるだろう』って説明が書いてあるね」
「あんなにきれいな銀の時計が、ねえ」
「こんなにすすけちゃうんだね」

「ねえ、これ、茶色いのが血痕だって、この手帳」
「どれどれ? 日記……って書いてるね。『これは出撃を明日にひかえた若い突攻隊員である大学生が、自分の生き方に疑問をおぼえて自殺したことを証明する日記で、血痕がなまなましく残っている』って」
「怖いねえ」
「そうだね」

「ねえ、あれは? 木の枝」
「『戦火をくぐりぬけてきた木』だって。『空襲にあい、少し燃えてしまったが、つい最近まで生きていた。持ち主の同い年の女性が亡くなったと同時に、この木も枯れた』んだって」
「不思議だねえ」
「うん……」

「あ、もう出口だ」
「入り口にいたおじいさん、一人で見てるから、入場料もいらないし、そんなに広くないんだね」

「ねえ、これ見て。『さいごに』」
「ん? 『私達は、今戦争と平和のはざまに立っている。真の平和をもたらすためには、私達はさらに努力しなければならない』って。ふうん」
「今でも十分平和だと思うけどねえ」
「世界中が、平和になるように、考えてゆかないといけないんだねえ」

「……さあ、だいぶ時間が余ったねえ。映画見る前に、お昼食べても間に合いそうだよ」
「じゃあ、そうしようか。おじいさん、どうもありがとうございました」
「おもしろかったです。また機会があったら来ます……よーし、何食べよっかなあ」
「何にする? 私は、何でもいいよ」
「そうだねえ、『しゃぶしゃぶ』ってのは?」
「ええっ?」
「冗談だよ、あはは……」
「あはは……」
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posted by なみかわ at 19:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編集 歴史博物館
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