2013年02月10日

おばあちゃんの木(2)

 同い年のしづ子が、縁側に出てきた。
 私は風に指先をまかせた。風はしづ子のもとへ、私の小さな緑の分身を届けてくれた。
 時代は向かってはならぬ方へ確実に進んでいることを私は知っていた。その結末も、すべて。
 しかし私はどうすることもできなかった。私は一本の木であり、口も、進化した指先も持ちあわせてはいなかった。

 やがて、紅い夜がやってきた。
 熱い夜だった。
 頭のはるか上で、黒い鉄の鳥達が糞を落としてゆく。人々の魂がひとつ、またひとつと空へ消えてゆく。

「しづ子!この手を離したらいかんよ!」
「おかあちゃん!」
しづ子と母が、家を飛び出した。無事に逃げのびることを祈った。その結末を知っていても、祈らずにはいられなかった。

 まわりを見回した。地獄だった。
 私はいつしか、意識のすべてで叫んでいた。

『やめてくれ、やめておくれよ、鉄の鳥達。
 もうこれ以上、大地を焦がすのはやめておくれ。
 何の為に、おまえ達は戦争をするんだい。あたしはみんな知ってるよ。

 結局戦争は、骨しか残らないんだ。たくさんの命が消えても、誰も幸せになれないんだ。確かにあと半世紀もすれば、一応落ち着くだろうけど、それは時代も人間も生まれ変わっただけのこと。戦争は、誰も幸せになんかしないんだ。

 ああ、おやめよ、銃剣を持って走ってゆく若者よ。
 おまえひとりの力では、どうにもならないんだよ。
……私に口が、あったなら……』

 背中の後ろで竹を割ったような音がした。熱さから炎が迫って来ていることがわかった。
 しかし私はどうすることもできなかった。
 その結末を知っていたから、私は静かに目を閉じた。
タグ:1993
posted by なみかわ at 19:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編集 歴史博物館

2013年01月27日

すべてが”0と1”になる前に−−インターネット未認識層にfingerせよ−−

 僕が初めて大学のサーバに*ログインして、コマンドでメールを読んだのが
 4年前の春。まだまだ、静かにThe Netがはやり始めた頃で
 −−ネットスケープのバージョンが1だったと言った方が感覚的には
 わかりやすいかもしれない。

 日進月歩の何倍もの速さで、ネットの世界は波打ち続けている。

 *Web絵本を作ることになって、大学の広報部に取材を受けたのが、
 96年の夏。いくつか質問を受けていて、答えられなかったことが
 ひとつあった。
『自分や周囲の人間が、ネットの世界にはまりこんで(依存して)
 抜けられなくなる危機感を持っていたり、万一そうなった時の対応を
 考えているか?』
 僕はその時は苦笑いして、言葉をにごした。

 つい最近に、メールからインターネットをはじめた友人も、ゼミの仲間も、
 今の通信生活が便利だと言う。みんながメールを使うようになれば
 いいのになあ、と目を輝かせて話をしてくれた人もいる。
 僕はうなづきながら、それが完全に「正しい」ことではないんだと、
 自分に言い聞かせる。

 いつか、ほぼ全ての情報は0と1の信号、電子ファイルとなって、
 作成、管理、加工、保存をされるであろう(便利で劣化しないから)。
 しかし、これと「ネットを使えるかどうか」は、別問題なのである。
「君は、能楽の魅力を知っているかい?」と問いかけるのと、「まだ」
 レベルは同じで、決して知らなくてできない人びとに冷たいまなざしを
 向けてはいけない。僕らが最新のハードやソフトを使いこなす前に、
*『インターネット未認識層』をしっかり捉えなくてはならないのだ。

 僕は初めてメールを投げた日から、確実に人生の新しい時代に踏み込んだ
 と思っている。それを肯定でも、否定するでもなく、全員がそうなるとは
 限らないと、ほんの少しでも覚えていてほしいのだ。

 あの時の『質問』に、いつかはっきりと答えようと、僕はネットを使って
 物書きを続けている。もうすぐそれは、未来に希望がある限り、
 きっとかたちになる、と信じている。


 デジタルとアナログの交差点から、5回にわたり、僕が今まで感じたことを
 書いてきた。手書きの原稿をホームページに変えて、みなさんのモニタに
 お届けしたい。

 メールを出そう。外に出かけよう。チャットをしよう。散歩しながら
 いろいろ話そう。*オンライン・ゲームをやろう。テニスをしよう。
 *オフライン・ミーティングで会おう。手紙を書こう。……

#23/01/1999, 09/03/2000
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初心者のための用語解説:

*finger:
UNIXのコマンド名。finger misaki などと入力すれば、misakiと
いう人の情報が得られる。UNIXとは、メールの送受信や、
ホームページのファイルを置いている「サーバ」に積まれているOS
(オペレーション・システム)のひとつ。

*ログイン:
ユーザの名前と、パスワードを記入して、サーバに入ること。

*Web絵本:
ホームページの形で、絵とお話を作ったもの。動画が使えたり、
音を加えることができるのが魅力。あとは通信回線がもっと太く
なれば、手軽に楽しめるようになる。

*『インターネット未認識層』:
僕の造語。インターネットがなんなのか、よくわかっていない人。

*オンライン・ゲーム:
テーブルゲームやロールプレイングゲームなどで、ネットを介して
対戦相手を見つけてプレイするもの。

*オフライン・ミーティング:
普段メーリングリストやチャットなど、ネット(オンライン)でしか
会っていない人たちが、実際に会ってイベントを行うこと。
タグ:1999 2000

走るメールマガジン〜節操のない本屋をわたり歩く〜

「1月9日、*まぐまぐが復活する。」
 この合言葉が通じる、メールマガジン発行者たちは、
 まさにこの日を待ちわびていたのではないだろうか。
 年が明け、何となく胸の中がすっきりして、まるで朝早くに白い息を
 吐きながらランニングをするような気持ちで、サーバが動く日を
 心待ちにした人も、きっといるだろう。

 インターネットには9つの機能(サービス)がある。特に*The Netの
 威力を感じるのは、*WWW(World Wide Web)と電子メールであろう。
 この数年で、The Netは僕らの生活にぴったりとくっつくようになった。

 ホームページは節そうのない本屋のようだ、と僕は思っている。
 いろんなジャンルの本が、世界中に散らかっていて、*ネットサーファーは
 その中を気ままに渡り歩いているのだ。

 電子メールは、僕らから「伝達の手間」を奪った。思ったことはメールで
 投げればすぐに届く。今回のコラムも、種子島とか知人のいる場所に
 行かなくても書けるから、奈良の自宅で書いたテキストファイルを
 メールで送る。それらの返事も、郵便より確実に速い。
「伝達の手間」は、新しいビジネス・チャンスを生み、*SOHOを生み、
 そして既存の『流通』をも新しい形態に脱皮させようとしている。

 ある土曜日、僕はネットの書店で「よく売れている」本を探しに出かけた。
 ところが、自分ではいくら探しても見つからず、店員さんに取ってきて
 もらった。
 レジで、「この本、売れてますか?」と何気に聞いてみると、
「いや、それほどでも」という返答とお釣りが戻ってきた。

 The Netで効果的に宣伝をして、それがヒットすれば、今までのやり方では
 本棚に埋もれてしまいそうな本でも、楽にすくうことができるのでは
 ないだろうか。本と、本が欲しい人との距離を、The Netは奪い取って
 くれるかもしれない。そうなれば、『流通』もいつかは変わらざるを
 得なくなるだろう。

 なけなしの貯金をはたいて作った僕の本だって、うまくいけばどこかの
 出版社が目を付けてくれて、カバーやバーコードがつくのだろうか?
 なんて甘い夢を見ながら、僕はまた夜になれば、「節そうのない本屋」に
 足を運び、自分のメールマガジンを配り歩いて、掲示板に書き込みをして
 楽しむのである。

#16/01/1999, 09/03/2000, 2013一部改稿
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初心者のための用語解説:

*まぐまぐ:
インターネットの本屋さん「まぐまぐ」。1月に株式会社まぐまぐ
となった、メールマガジン発行サービスサイト。
かえって初心者の方が知っている割合が高そう。

*The Net:
欧米ではインターネットのことをこういうそうです。

*WWW:
ネットスケープやインターネットエクスプローラなどの「ブラウザ」
を用いて、ホームページを見ることができること。

*ネットサーファー:
いろいろなホームページを「波乗り」しているかのように見て行く
人たちをさす。

*SOHO:
Small Office Home Officeの略。自宅や小さな事務所で、
パソコンを導入して、業務をこなす。
タグ:1999 2000

ミカン箱になれなかった夢の実行装置

 パソコンで何ができるか?−−初心者の方は、よく僕にそう聞いてくる。
 僕はこう答える。「何でもできる」と。
 僕は中学生の頃、パソコンがあれば、あの「*ドラクエ」を作ることが
 できる、と信じこんでしまっていた。*ファミコンで動く、
 ファミリーベーシックをちょっとだけ触っていたからかもしれない。
 それは少しだけ違っていたようで、道具(ツール)と思えるなら、
 パソコンは強力な「右腕」となって、僕らを助けてくれるのだと、
 使い続けてゆくうちに知った。

 何でもパソコンが「やってくれる」と甘い思いを抱いて、
 *電気街へ行ってしまったら、きっとその時買って来た大きな本体は、
 使い道のはっきりしないまま、ほったらかしにされてしまうだろう。
 *タワー型の本体なんて、ミカン箱よりもたちが悪い。上に本を置いて
 勉強することすらできないから、困ったものだ。

 パソコンを買おう、とあなたが思うなら、まずメモ用紙に
「何をするために」かをはっきり書く。絵を描くため、音楽を創ったり
 聴くため、ホームページを見てメールを書くため……単にばく然と
 欲しいから、という「もやもや」は消してしまった方がいい。
 それからサイフと店の人と相談すれば、「ただの鉄の箱」になってしまう
 こともないだろう。

 買って間もない頃は、いろんなことをパソコンでやりたくなってくるが、
 全部を「任せない」ことが上達への近道だ。僕も昔、何から何まで
 書くものをテキストファイルにしたことがあったけれど、
 ある日考えていることがなかなか打ち出せなくなって、結局ノートを
 買って落書きを再開した。ツールの一つだ、と思ってからは、
 パソコンと楽につきあえるようになった。

 今年の年賀状も、手描きの絵をスキャンして、お絵かきソフトで
 多色刷りの原稿を作り、ワープロソフトで黒だけ印刷、あとは
 *プリントゴッコでぺたぺたと−−と、用途に応じて使い分けた。

 不況不況と言われても、暗い時代だと噂されても、元気良く成功している
 人や企業は、小さな機会(チャンス)を見逃さずに生かす天才なのだ。
 今、急激にインターネットを使う人びとが増えているが、世界につながる
 端末となるパソコンにも、まだまだ無限の可能性がある。
 やってみたいことはないだろうか。ツールさえあれば楽になることは?
 始めたばかりの人も、だいぶ慣れてきた人も、自分らしい使い方で、
 今使っているパソコンをもっと、「夢の実行装置」に近づけてほしい。

#16/01/1999,09/03/2000
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初心者のための用語解説:
*ドラクエ:
ドラゴンクエストの略。ファミコンで発売されたロールプレイング
ゲームで、その感動を経験された方も多いことでしょう。

*ファミコン:
テレビゲーム機械の代名詞ともなった、任天堂が発売した
テレビゲーム機械「ファミリーコンピュータ」の略称。

*ファミリーベーシック:
ファミリーコンピュータで動く、BASIC(プログラム言語の
ひとつで、初心者も理解しやすい)システム。キーボードと
カセットがセットで売られていた。データのバックアップは、
カセットの単三電池か、カセットテープでとる。

*電気街:
電機街ともいう。パソコンや家電製品の店が集まっている地域。
大阪なら日本橋、東京なら秋葉原が有名。

*プリントゴッコ:
家庭用謄写印刷機。たぶん日本で一番普及していると思うので、
代名詞として使わせてもらった。
タグ:1999 2000

おっちゃんadmin(あどみん)、ちっちゃいSE(えすい〜)

 僕は少し前まで、2000年が21世紀最初の年だと思っていた。本当は
 2001年からの100年間を21世紀というのだが。その21世紀まで、
 あと2年を切った。
 幾何学的な建造物(モニュメント)が建ち並び、リニアモーターカーや、
 浮き上がる自動運転車がかけぬける。家の中で、薄っぺらい液晶画面の
 テレビを見たり、画面のボタンをピピピと押して、買い物をする。
 こんな僕らの予感した*Coolな未来は、本当に近づいてきているのだろうか。
 21世紀になって、がらりとひっくり返ったように変わるわけじゃないな、
 とは最近わかってきたのだが。

 ネットの海には、世界中から、いろんな生き方、暮らし方をしている人が
 集まってくる。みんながみんな、*サイバネティックだとか先進技術的と
 いうわけでもない。
 たとえば、あるプロバイダは−−「おじさん」、関西風に言うなら
「おっちゃん」が趣味で運営していて、サーバは自宅の「はなれ」(別室)に
 置いてあるとする。夏の暑い時は、おっちゃんがパンツ一枚でシステムを
 いじっているかもしれないし、冬の寒い時は、ストーブでモチを焼きながら
 ホームページを更新しているかもしれない。プロバイダの連絡電話番号は
 自宅と同じで、奥さんが「あなた電話よ〜」と、子機を持って来るかも
 しれない!

 僕も仕事でパソコンをいじる(操作する)ことが多いが、あこがれの
 システムエンジニアにはほど遠く、頼まれた書類を作ったり、端末の調子を
 見たりといった、みんなの仕事が円滑に進むような手助けをしている。
 こういった*Hip(<Cool)な状況は、けっこう存在するのでは
 ないだろうか。

 しかし、この「Hipな現在」も、幅広く見つめれば、未来へ少しずつ
 進んでいる課程となっている。インターネットを使うことは、最終的に
「正しいか」まではまだ決められないが、確かに便利で未来的だとは
 言えるからだ。
 今日は、仕事でノートパソコンにソフトをインストールしていた。
 表計算ソフトやワープロで、書類を作る仕事も締め切りが近い。
 僕の仕事が、みんなの役に立ってくれたらいいなあ
 −−そんなことを思いながら、僕の一日も、Hipに続いている。

#16/01/1999, 09/03/2000
−−−−−−−−−−−−
初心者のための用語解説:

*Coolな:
かっこいい、という意味。Yahoo(検索ページ運営の大手)で、
サングラスマークがついているホームページをCoolと言っていた。

*サイバネティック:
正確にはCybernetics。計算機(パソコン)などを利用して、
制御されたもの。

*Hip:
poor(かっこわる〜い)<Hip(まあまあじゃん!)<Cool(カッコいい!!)
タグ:1999 2000